シャッ、シャッ  カードを繰る音だけが広すぎる部屋に響いていた。  芹香の表情はいつもと同じく変化が見られない。  ただ、ただ、カードを繰り続ける。幾度も幾度も・・・・  邪魔をする人間はいない。彼女の自室には他に誰もいないのだから。  パタパタ  ようやくカードを繰る手を止め格調高そうなテーブルに慣れた手つき  でカードを規則正しく並べていく。  そして、1枚1枚ゆっくりとめくる。       《黒の扉》       《誘惑》       《罪と裁きと死》       《永遠の苦痛》  めくられたカードに記された名前(日本語ではない)を見て芹香の表 情が曇る。  ここ数日、占う度に同じ、あるいは似たような結果が出る。  めくられたカードが示すものはどれも芹香にとって良いものではなか った。  全てが、終焉と苦しみを象徴するものだ。  芹香の手が震える。  そう、本当は分かっている・・・・・占うまでもなく。  あの人の心は手に取るように分かってしまう・・・・悲しい事に。  震える手をそのままに次のカードをめくる。       《始まりの書》  新たなる始まりを象徴するカードだ。  普通なら歓迎すべきカードだ。だが、芹香が占った事柄、そして今ま でのカードの内容を合わせると・・・  ふと視界の端に白いものがみえた。なにげに窓の外を見る。  雪がちらついていた。  今日はクリスマス。  ----今夜は浩之さんと・・・・・・  1ヶ月前から頭から消えた事のない約束。  彼の人を想うと身体が熱くなる。  瞳を閉じると身体中がその指、その唇の感触を覚えている。  だから、否定してしまいたい。その事を。  そうすればずっと幸せでいられる・・・・・・はず  再び視線をテーブルに向けると、置いてあった芹香に似つかわしくな い安っぽい指輪に手を伸ばした。  パサッ  服の裾に触れた二枚のカードが床に落ちる。 「あ・・・・・」  拾い上げて元の位置に戻そうとして思い直した。  無言でその二枚を見つめる。  占いを締めくくる最後の二枚。  今まであえてめくらずにいた。  めくるまでもない。めくるまでもなく知っている。  だから、めくりたくなかった。否定したかった。  カードが示すのは二人。  芹香ともう一人。  フゥ・・・・  なにかを諦めるようなため息。  その二枚をそっとポケットに閉まった。 ~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^  【  太  陽  は  月  を  照  ら  す  】 WRITTEN BY 赤砂 多菜 ~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^  ヒュゥゥゥゥ  凍り付く風が住宅地の路地を吹き荒れる。 「あたりまえだけど、やっぱり寒いわよねえ」  純白のコートを押さえ、綾香は身を震わせた。 「はあ、なんでウチの学校はあんな行事があるのよ。わざわざ学生の貴 重な冬休みの一日を潰さなくていいじゃない。・・・というか、それ以 前に高校にもなってする?」  口の中で小さく誰にともなくこぼしながら、ある家の前で足を止めた。  表札には藤田とある。  指先がインターホンに伸びる。  ・・・・・・・・・・・  再び押す。  ・・・・・・・・・・・・・  三度目  ・・・・・・・・・・・・・・・ ----プチ  綾香はスゥと大きく息を吸った。 「浩之ぃ。来たわよぉぉ」  綾香は玄関前で遠慮ない声で呼びかけた。  シーン  数秒間の沈黙の後  ガラッ  二階の部屋の窓が開き、浩之が不機嫌そうな顔をのぞかせる。 「恥ずかしいから、大きな声で呼ぶなよ」 ----あかりですら、最近は呼ばないのに・・・・  浩之の怒鳴り声と小さく呟いた言葉を捕らえて、綾香はムッとなった。 「インターホンを何度押しても出てこないからじゃない」 「壊れてんだよ。いいから、玄関空いてるから勝手に入ってくれ」 「じゃ遠慮なく」  ガチャッ  本当にかけらの遠慮もなくまるで自分の家に入るかのように二階に上 がる。もっとも、綾香の家はこんなに狭くないが・・  浩之の家に来るのは二度目だったので、浩之の部屋がどこかは分かっ ていた。  フウッ  綾香は浩之の部屋の前で足を止め、知らぬ内に熱い息をもらした。無 意識の自分の行動に慌てて口元を押さえる。  綾香は自分が緊張しているのを自覚した。 ----そっか・・・・、-あの時-からもう半年か・・・  トクン、トクン  心臓の鼓動をやけに強く感じた。喉がカラカラに乾く。  だが、いつまでもここにつったっている訳にもいかない。  袖をギュッと掴み、軽く唇をかんでドアの取っ手に手を伸ばす。  ガチャ 「よう遅かったな」  ベッドに腰掛けたまま浩之は言った。  何気なく回りを見渡す綾香。 「あいかわらず、ちらかしてるのね。少しは掃除しなさいよ」 「う、うるさいな。いいだろっ。別に」  綾香は黙って肩をすくめた。  ほんと、-あの時-と変わっていない・・・ 「後かたづけで忙しかったのよ・・・」 「後かたづけ?」  浩之は眉をひそめた。 「学校行事でね・・・」 「クリスマスパーティーでもやってたのか?」 「そうよ」  あっさり答えられて、浩之はガクリと崩れそうになった。 「高校にもなってやるなよ・・・」  綾香は方をすくめ、 「同感だけどね。ウチらしいじゃない」  そう言ってクスッと笑う。 「まあ、お嬢様学校だもんな、寺女は・・・」  呟いてふと窓の外を見た。 「お、雪が降ってるな」 「さっきから降ってわよ。少しだけどね」  綾香はベッドに腰掛けていた浩之の横に座る。 「ちょっと、物足りないけど、クリスマスって感じじゃない?」  そういって、チラチラと舞う雪を眺めながら、クリスマスソングを口 ずさむ。  体をピッタリとつけ、頭を浩之の肩に乗せた。  浩之は反射的に体を離そうとしたが、綾香はその気配を察知してさら に体を密着させる。  フウッ  綾香が歌い終えた。  それを待っていたように浩之が立ち上がって、机の引き出しからCD ケースを取り出した。洋楽のCDだ。 「ほら、綾香が言ってた奴ってこれだろ?」  綾香はパッと顔を輝かせてCDケースを手に取った。 「これよ。これこれ。間違いない。本物だわっ」 「そんなにめずらしいもんなのか?」  浩之が聞くと、 「当たり前じゃない、すでに絶版になって来栖川のネットワークを使っ ても見つからなかったのに。まさか、こんな所にあるなんて」  興奮して喋る綾香に、浩之は頬をかきながら、 「前に雅史にもらったやつなんだが・・・。そんな大層なものだとは夢 にも思わなかったな・・・」 「ともかくっ。ありがとう浩之。これでお父様に良いクリスマスプレゼ ントが出来たわ。ほんと、お父様はこの歌手のファンだから喜ぶ顔が目 に浮かぶわ」  心底嬉しそうな綾香を見て、浩之も相好を崩す。 「・・・でも、よく考えたら先輩に渡しても良かったんだよな。両親へ のプレゼントなんだから・・」 「う〜ん、私もそう思うんだけど・・・、姉さんは準備で忙しそうだっ たし・・」 「準備?」  聞き返す浩之に綾香は上目づかいになって 「・・・・とぼけるんじゃないの」  浩之が視線をそらすと、綾香がその先へ先回りして目を合わせようと する。  低レベルな攻防が何度か繰り返された後、 「・・・・なんで知ってるんだよ」  とうとう浩之が根を上げた。 「姉さんの様子をみればすぐ分かるわよ、あの姉さんが自分から着飾る なんてそうそうあることじゃないわよ」 「たく、めざとい奴だな」 「で、どこでデートよ。今夜は泊まり?」 「う、うるさい。どこでもいいだろうがっ」  顔を真っ赤にしてどなる浩之。  ズキッ  綾香の胸が痛んだ。 「まあ、・・・・・・いいけどね」  表情を変え 「さて、このお礼をしなくちゃね・・」  浩之は両手を振って 「いいさ、気をつかわなくても。元々もらい物なんだし。それにほとん ど使ってなかったしな」  浩之を言葉を無視して綾香は自分の体を浩之の胸に押しつける。 「・・・・何のつもりだよ、綾香」  浩之が問う。さっきまでとうって変わって固い表情で・・・・いや、 正確には平静さを装っていたのが崩れ去ったというべきか。 「もちろん、お礼よ」  バッ  浩之は綾香の体を引き離して背を向けた。 「浩之っ!」  綾香の悲痛な声。  浩之は握りしめた手を振るわせて、 「何考えてるんだ・・・綾香」 「・・・・・・・・・・」 「俺は今夜、先輩と・・・・芹香と会うんだぜ。・・・・ひ、一晩一緒 に過ごすって約束したんだ・・・・。なのに・・・」  トンッ  浩之の背に綾香が縋り付いた。 「どうして・・・・、どうして姉さんの方が先に浩之に会ったの。どう して私の方が先に・・・・」 「いまさら・・・・、言っても仕方ないだろ・・・」  綾香はキッとなって、 「じゃあ、なんであの時私を抱いたのっ!」 「・・・・・・・・・」  浩之は答えられなかった。  そう二ヶ月前。浩之はこの部屋で綾香を抱いた。  誘ったのは綾香。だが、応じたのは浩之自身の意志だった。  綾香に惹かれている自分を知っていたから。  だが、その時すでに芹香とは恋人同士となっていた。  綾香もその事は承知していた。  だから、事が終わった後、お互いに何もなかった事にしてしまった。  それで終わったはずだった。忘れるはずだったのだ。 「たのむ・・・、離してくれ。でないと・・・」  その後、芹香を何度か抱いた。だが、その度に上気し喘ぐ芹香の表情 と綾香の顔がダブった。  忘れられない。その声。その肢体。その顔。麻薬のようにそれを欲し ている自分に気付く。  これ以上は危険だと、こころの奥で警告が鳴る。  もう一度抱けば二度と手放せなくなる。その事が分かっていた。  だが・・・・、突き放せない。突き放すには余りに甘美な誘惑だった。 「・・浩之・・・・・。お願い・・・」  背中が熱い。  もしも、はっきりと綾香を拒絶すれば、それで済むのかも知れない。  このまま部屋を出ていって何食わぬ顔で芹香と会い、共に夜を過ごせ ばまたいつも通りの日常に戻れるのかも知れない。  だが・・・・・ ~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^  ふいに背中が軽くなった。  パサッ  何か、軽い布のような物が落ちる音。  喉がカラカラに乾いた。  振り向くのが怖かった。 「・・・・・こっちを見てよ、浩之」  振り向いてはいけない。もし振り向いたら引き返せない。  だが、恐れる心とは裏腹に、身体はゆっくりと振り向く。  そこにはYシャツとパンティーだけの姿の綾香がいた。 「あや・・・か・・・・」  綾香の腕がゆっくりと浩之の首に回される。  視界に綾香の顔が広がった。  浩之の頭の中で何かが音を立てて崩れていく。 「っ・・・・」  唇がふさがれるのを浩之は拒まなかった。  ギュッ  いつのまにか浩之の腕も綾香を抱きしめていた。  浩之の手のひらが片方は綾香の腰に、片方がシャツの上から胸を乱暴 につかむ。 「あっ・・」  反射的に綾香は唇を離した。だが、浩之はそうはさせじと追って再び 唇を重ねる。 「んっ」  唇をわって浩之の舌が侵入し、綾香の舌と絡まる。  Yシャツのボタンを片手で一つ一つ外す。全てのボタンを外すと今度 は手がシャツの内側に潜り込みブラをずらして、直接手のひらで乳房を 包む。  脳裏に浮かぶ芹香の顔。哀しそうな表情をしていた。 だが、-それ- すらもかすれて消えていく。  はあっはあっ  高熱にうなされたように霞がかかった意識で綾香をベッドに押し倒す。  浩之は半ば理性を失った目をしていた。  それを見て綾香は半分は満足そうに、半分は自虐的に微笑んだ。  自ら脚を開き、浩之の手を掴み自分の秘所へと導く。  そこは布越しでも分かるくらいしっとりと濡れていた。  くちゅ・・・・  パンティーの内側に潜り込んだ指先が綾香の胎内に侵入する。 「・・・・っ、あ、あぁ」  熱い吐息を漏らして、浩之の胸にしがみつく。  浩之はいったん綾香の中から指を引き抜く。透明な液体が糸を引く。  スルッ  ブラを外し、パンティーを脱がしそれらをベッドの脇に放る。  全裸の綾香に自分も服を脱いで身体を重ねた。  浩之の唇が綾香の額に、唇に、喉元に・・・どんどん下へとずれてい く。 「あ、いぃ、あ、ひ、ひろゆきっ・・・」  胸の谷間に舌を這わされ声を上げる綾香。  舌は乳房を這い、さらに固くなったピンクの乳首を口にふくむ。 「んっ」  さらに舌はへそを通って、腰、太股へ。 「・・・・・・・・・」  はぁはぁ  ぽーっと、潤んだ瞳で虚空を見つめる綾香。だが・・・・ 「っあ!」  浩之の舌が太股からその付け根に移動した時、ひときわ大きな声を上 げた。  ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ、  自分の一部が高く淫猥な音を立てるのを耳にして耐えきれず、顔を両 手で覆う。 「ひ、浩之っ! ダ、ダメッ」  浩之は綾香の悲鳴を無視して再び指を突き刺し、綾香の胎内を乱暴に かき回した。 「ひっ! あ、やっ、あああぁ」  クチュクチュクチャピチャ  綾香のあえぎが高くなり、吐息がどんどん熱くなる。  ふいに浩之が指を引き抜いた。 「あ、どうして・・・・」  潤んだ瞳で浩之を見つめ、自分の愛液の付いた彼の指を舐める。 「・・・いれるぞ」 「うん・・」  直接的な物言いに綾香は躊躇なくコクンと頷いた。  ここに来る前からそのつもりだったのだから・・  両脚を大きく開いて、浩之のモノを迎え入れやすくする。  ズニュ  浩之のモノが綾香の中へ押し入ってくる。  はあ、はあ、はあ、はあ、  綾香は声もなく吐息をもらすのみ。  だが、それも浩之が動きだすまでの間だった。 「あ、あぁ、ああああああぁ!!」  涙が頬を伝う。快楽の為か、それとも・・・  振動がどんどん激しさをます。  それに比例して綾香のあえぎも高く高く・・・ 「ひろゆき、ひろゆき、ひろゆきぃぃぃぃ!!!!」 「くっ」  瞬間、綾香の意識が真っ白になった。  終わった後も二人はすぐに動かなかった。 ~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^  終わった後、二人はしばらく口をきかなかった。  服すら身につけず、ただ黙ってお互いの顔を見ようともしなかった。  先に口を開いたのは綾香だった。 「いいの? そろそろ行かないと待ち合わせに遅れるんじゃない?」 「・・・・・・・ああ」  ノロノロと二人は着替え始めた。 「・・・・・綾香」  呼びかけに綾香は気怠いような表情で浩之の方を無言で見つめた。 「もう、遅いんだぜ。もう・・・・」  綾香は疲れた微笑みを浮かべ 「そうね。-あの時-もそう言ったよね」  そう言って目を伏せた。肩が震えている。  ふいに浩之が窓の外へ目を向ける。先程より雪の降る量が増したよう に思えた。でも、それはどうでもいい事。彼は単に目をそらしただけな のだから。 「・・そうよ。もう遅いのよ。だから・・・こんなに・・・・」  声も震えていた。床に一滴、二滴と雫が落ちる。 ~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^~^  ガチャ  綾香と浩之はドアを開けて玄関を出て瞬間、そこで二人そろって硬直 した。 「ね、姉さん」 「先輩・・」  そこには芹香が立っていた。  三人の間の空間はまるで凍りついたかのように静かだった。  そばにはリムジンは見えない。  一人で来たのだろうか? 「ど、どうしたんだよ、先輩。まだ、約束の時間じゃないし、待ち合わ せ場所も違うぜ」  微かに震える声で浩之が言う。  スッ  芹香が無言で何かを差し出した。  反射的に受け取って絶句する。  それは指輪だった。  夏の間にバイトをして買った指輪。  安物だったが、うれしそうに受け取った芹香の表情をはっきりと覚え ている。 「・・・・芹香」 「今でも好きです。・・・あなたが。でも・・・・」  無口な姉の言葉に綾香は 「ね、姉さんっ。違うのっ! こ、これはっ」  何が違うのか。  説明できないまま苦しそうに続きの言葉を発しようとする妹を見て、 芹香は無言で浩之の手から指輪をとり、綾香の手に握らせた。 「・・・・・・・・・え?」  芹香は微笑んだ。目に微かな涙を浮かべながら 「苦しまないで、素直になって。あなたの幸せが私の幸せでもあるから」 「姉さんの・・幸せ?」  芹香は2枚のカードを取り出した。いつも占いに使っている物だ。  それぞれに太陽と月の絵が描かれている。  占いを締めくくる最後の二枚。それぞれ、未来、そして過去を示す。 「これは私達。綾香が太陽。私が月」 「・・・・・・」 「月は太陽の光を受けて輝くの。太陽が光を失えば・・・月もまた光を 失う」 「ね、姉さん・・・」 「それに・・・・」  芹香は浩之に目を向けた。浩之は耐えきれず視線をそらす。 「浩之さんが欲したのは・・・・太陽だから。ただ、太陽を反射した月 の光に錯覚しただけ」 「・・・芹香」  芹香は浩之にぺこりと頭を下げて背を向けた。 「今日の約束は無かった事に・・・。これからも・・・・」  そう言って去っていこうとする芹香の背に浩之は 「先輩っ。俺はっ」 「言わないで・・・・。謝らないで下さい。私は・・・・」  そう言って一度だけ、芹香は振り返った。 「私は・・・・幸せでした・・・から・・・」  そして、二度と振り向かずいってしまった。 「芹香・・・・」  呟く浩之の服を綾香がギュッと掴む。  そして、どれくらいそうしていただろうか・・・  ふいに浩之が綾香の手をとった。 「えっ?」  彼女の手のひらから指輪をとり、綾香の指先にはめる。  綾香はうつむいたまま、肩をふるわせしばらく黙っていたが 「・・・・・・いいの?」 「・・ああ」  それ以後はお互い喋らなかった。  舞い落ちる雪がさらに増えていた。視界を真っ白に塗り替える。  明日になれば積もるだろうか?  全ての嘆きを覆い隠す位に・・・ END